グループステージを3連勝で首位通過し、ラウンド16で対戦する相手は2018W杯にも出場したサウジアラビア。苦しい試合となりながらも、1-0で勝利しベスト8に進んだ日本の試合を分析していく。
6.アジアカップ①日本vトルクメニスタン分析~2点リードから不安な展開~
7.アジアカップ②日本vオマーン分析~初戦から改善できた点とできなかった点~
8.アジアカップ③日本vウズベキスタン分析~メンバーを入れ替えて挑んだ中での明暗~
サウジアラビア戦の日本代表先発メンバー
○1-0 得点:冨安健洋
サウジアラビアとは2018W杯最終予選でも2-1、0-1と互角の勝負を繰り広げた相手だ。(最終予選後にベルト・ファン・マルワイクからフアン・アントニオ・ピッツィ現監督に交代)
今大会の主力メンバーは若返りは見られるが、GKオワイス、DFシャハラニ、ブレイク、ブライヒ、ハイバリ、モガハウィ、ファラジ、シェフリ、MFドサリ、オタイフ、バヘブリ、FWムワラドら、W杯に出場した中堅選手が多く選ばれ、タイトルを狙うチーム構成となっている。
そんなサウジアラビアに対し、日本はFWの北川航也を武藤嘉紀に代えた以外は14日の2戦目のオマーン戦と同じ先発メンバーを起用。
本来なら、ウズベキスタン戦でも85分間の出場をしている武藤を使わずに大迫勇也を起用したいところ。しかし負傷状態から完全に回復していないのか、結局起用されることはなかった。
サウジのパスワークを前に守備で耐えて先制した日本
このように、16日のウズベキスタン戦からターンオーバーして臨んだ日本だが、試合は日本がサウジアラビアにボールを支配される形で終始進んでいくことになる。
サウジアラビアは試合開始1分でフリーキックを得ると、その流れからシュートまで持っていく。その勢いを生かし守備でも前からプレッシャーをかけて主導権を握りにきた。
対する日本は無理に勝負を挑まず、まずは自陣で442のブロックを作る形で入る。
これまでの3戦では、日本が前目に位置取り縦パスを入れるところを狙われ、カウンターでピンチを迎えるという場面も多かったが、この試合ではサウジアラビアがパスを回しながらボールを保持し、日本が攻めてくる相手の攻撃に対してリアクションを取っていくという全く違う試合展開となった。
パス以外の面を見ても、サウジアラビアの選手は日本が厳しく寄せに行くと簡単に倒れてファールを貰いに行くなど、チームで意識が徹底されていた。
とはいっても日本もこれまでの試合のように、相手の出方をみながら徐々に主導権を握る試合をすることが予想された。
実際、20分には柴崎岳のコーナーキックから冨安健洋が高さを生かしヘッドで決め先制する。その前の流れを見ても、サイドチェンジの展開から原口元気が左サイドで仕掛けコーナーキックを得ており、大会中に修正された早いタイミングで前にパスを入れる攻撃プランがはっきりと出た形だった。
にもかかわらず、その後も相手の攻撃を受け続け前に出られなかった日本。その理由はどこにあったのか。
分断された武藤、南野と中盤以降の選手の関係性
グループステージ3試合でポゼッション率が70%を越えていたサウジアラビア。パスを繋いで攻めてくることが想定できた中で、日本にとってどう相手の攻撃を遮断し、逆に攻めていくのかが重要になるのは言うまでもない。
序盤の日本はこれまで同様、相手の攻めを見つつも、隙があれば後方でパスを回している段階で前線からプレッシングに行くという策を取った。
ウズベキスタン戦のメンバーには見られなかった、最終ラインから冨安や酒井宏樹が高い位置に飛び出しカバーしてボールを奪い、日本が攻撃を続ける場面も見せていた。
ここまでの流れはうまく行っていたと言えるだろう。しかしそこからシュートに繋げていく場面でやはり大迫不在の影響が大きく出てしまっていた。
この日、前線で先発した武藤は左サイドに流れて裏に走り込んで貰おうとする場面が多く、南野は自陣に下がって中央で受けるか、右サイドに流れる動きが目立った。
つまり前線中央で受ける選手がいなかった、ということだ。
特に、これまでの相手より実力があるサウジアラビアが前に攻めてくる中で、サイドハーフの原口や堂安律もシャハラニとブレイクの両サイドバックが高い位置を取っているため、下がらざるを得ない状況が多かった。
自陣で奪って攻めに出る場面でなかなか形にはならず
中盤の守備に関して言えば、今日は柴崎も遠藤航も厳しく寄せて中央からの攻撃は阻止できていた。もちろん、日本チーム全体が引いていたことで、ラインの高いときに比べてスペースへのカバーをしあえる距離間にいたことも大きいが、それでも2人は最後まで集中を切らさなかった。
問題はその中盤と前線2枚の関係性にある。
例えば、サウジの選手が自陣から最終ラインを押し上げてパスを繋いでくるなかで、武藤は前に食らいつき、南野はそれをカバーする形で後方スペースを埋める。
しかし前線から一人でプレスに行っても交わされるだけであり、無駄な体力の消耗となる。
サウジが日本陣内でボールを回す段階になると、武藤はそこでプレスバックをやめてしまい、南野が左右に動き体力を消耗。
こうなると4-4ブロックを敷いて中盤以降で奪っても、さあカウンターという時に前線の2選手は疲れていて動き出せないという悪循環に陥ってしまう。今日の日本はまさにそのような場面が多かった。
特に、体力のある前半はまだスペースに走り込む力もあったが、後半に入り60分あたりから明らかに2人の運動量は落ち始めていた。
日本が守備で耐え続ける展開となっていた67分、長友が前に飛びだしてボールホルダーへ寄せ、遠藤が奪い柴崎が縦パスをいれるというシーンがあった。しかし武藤、南野の両選手とも相手ゴールに背を向けていて、パスを受けられなかったシーンはまさにそれを象徴していた。
試合後のコメントを見ても、押し込まれた状態からどう攻撃を完結するかははっきり統一されていなかったようだ。今後の試合でも実力が同等、あるいは格上の国相手に押し込まれることは考えられるため、どう改善されていくかは見どころとなりそうだ。
最後まで残した3枚の交代カード
疲労が見えてきた展開であれば、交代カードを切って前線をリフレッシュしボールを追わせる、あるいはカウンターで縦に走らせるという策も考えられるが、森保監督はこれまでの試合同様になかなか動かなかった。
76分にやっと南野に代わって伊東純也が投入されたが、カウンター要員として相手は相当警戒をしてファール覚悟で止めに来ていたことからも、相手も消耗している中で前に出るプレーは効いていた。
その後は89分に堂安に代え塩谷、アディショナルタイムに武藤に代え北川と、残りの2枚の交代カードを時間稼ぎに使い勝利した日本。
単純に前線からの守備で交代要員として使える選手がいなかったということもあるだろうが、後ろの選手の負担は大きくなってしまった。
とはいってもこれこそが監督の判断であり、選手全員が同じ意識を持ってプレーしているならば問題はない。2点目を取りに行って勝つよりも、1点差を守り切って勝つ戦略を取る森保監督の志向がはっきりと出た試合となった。