ラウンド16の戦いではボールを保持し攻めてくるサウジアラビア相手にセットプレーの1点を守りきり勝利した日本。中2日で行われた準々決勝のベトナム戦でも1-0と同じスコアでの勝利となったが内容は全く違うものとなった。
9.アジアカップ④日本vサウジアラビア分析~先制しながらも押し込まれ続けた理由~
2018~日本代表(森保一監督)戦績
ベトナム戦の日本代表先発メンバー
○1-0 得点:堂安律(PK)
今大会のベトナム代表は、アンダー世代で躍進を見せる若手メンバーを主体とするチーム構成となっている。これまでワールドカップ出場経験もなく、アジアカップ出場も南北統一後で見ると、自国開催(タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアの4カ国共同)となった2007年以来の出場となる新興勢力だ。
グループステージではイランに0-2で敗戦しながらもイラク、イエメンに勝ち3位通過での突破。ラウンド16のヨルダン戦ではPK戦にもつれ込みながらも勝利しベスト8まで進んできた。
そんなベトナムに対し日本は、累積警告で出場停止の武藤嘉紀を北川航也に代えた以外は、サウジアラビア戦と同じ先発メンバーで臨んだ。
格上の強さを見せた日本
正直なところサウジアラビアと比べれば簡単な相手だったというのがベトナム戦の感想になる。スコアで見れば1-0だが攻撃の形を作れた回数や、守備ブロックを作ったときの危機感のなさはサウジ戦と比べても全く違っていた。
序盤から日本がボールを保持し試合を進め、ベトナムはこれまでの4試合と同じ541のシステムで自陣でブロックを作り試合に入った。
ベトナムは日本の後方からの縦パスを狙っており、前半は吉田の中盤への縦パスが何度もインターセプトされる場面があった。中2日で連戦となった選手が精彩を欠いていたシーンとも言えるかもしれない。
それでも中盤の遠藤が献身的にカバーに入りボールを奪うことでカウンターの目は摘んでいた。
相手がうまく日本の穴を突いてきたというより、ラインを上げて攻撃する日本側の気の緩みからか、ミスでパスを奪われていたというのが前半の戦いだった。
後半は理想的な攻撃を展開
後半に入り、前半スローペースにも見えた日本が動き始め、前半から守備に走っていたベトナムの運動量が落ち始めると試合は一気に日本ペースに。
左右サイドで長友佑都、酒井宏樹が動き引きつけ、中央に流れた原口元気や堂安律が中盤の柴崎岳や最終ラインの冨安健洋から縦パスを受ける。
こういった連動した動きからワンタッチパスでの崩しが多くなり、57分に堂安が倒されて得たPK(VAR判定)を自ら決めて日本が先制した。
ビハインドとなったベトナムは前に出るも、日本は大迫を投入し相手に驚異を与えたままの試合運びで試合に勝ちきった。
酒井宏樹は相手を格下と見ての油断はなかったと言うが、長友佑都が後ろの選手は攻められても余裕があったと語るように、トルクメニスタン戦と同じような試合を無失点で抑えたことには意味があるし日本のアジアでの強さは見られた。
あえて言うなら、日本のミスは相手がベトナムだったから助かった場面も多いという点。1トップのグエン・コン・フォンに仕掛けられた場面は、世界上位の相手なら簡単に個人突破されて失点していただろう。これは今になって始まった問題ではなく、強い国を相手にしなければ学べないところであり難しい。
GK権田修一のビルドアップ面での課題
今日の試合におけるピンチは、日本のミスによるものだと書いたが、そのひとつがゴールキーパー権田修一のビルドアップの選択だ。
日本の攻撃の始まりは、最終ラインの吉田麻也と冨安健洋がボールを保持し、そこからサイドバックや中盤の選手にパスを入れることが多い。
その際、相手が寄せてくればゴールキーパーに一旦戻すという選択肢をとることもある。
パスを受けるキーパーはまず相手のいないポジションに移動してパスを貰い、そこから詰めてくる相手のいない味方選手にパスを通し相手守備を一枚剥がすわけだが、今日の権田はこの基本的なプレーができていなかった。
権田がやったことは安全な場面でも前にクリアという選択で、前線にターゲットマンのいない日本がこれをやると相手ボールになる確率が出てくる。
明らかに相手が近くまで寄ってきている状態ならまだしも、フリーな状態でせっかく日本が保持するボールを相手に渡すという行為はありえない。
現代サッカーでキーパーはもはやシュートを止めるだけで合格の時代ではなくなっている。日本代表のキーパーであることを考えるなら物足りないのが正直なところだ。センターバックの吉田と冨安はパス技術もあるため余計にその点が強調された試合となってしまった。
北川と南野という前線の選択
次に挙げられる日本のミスは、北川と南野拓実のFWという選択だ。
2人とも相手を背負って前で収めて仕事をするタイプの選手でなく、動き出しで勝負しシュートに持ち込むタイプの選手である。
そんな選手に対して、ベトナム戦でもパスの受け手としての役割を求められるシーンが多く、特徴を生かしきれていなかった。
特に、北川はベトナムのプレッシングに苦しみ、前半はミスが目立った。後半、ベトナムのプレッシャーが落ちてきた段階になるとパスを捌けるようになったことからも、フィジカルコンタクトで勝負できる状態でないのは明らかだ。
大迫勇也が負傷で今日の試合も先発せず、武藤が出場停止の中で残された前線の選択肢はシステムを変えない以外にはこれしかなかった。仮に、武藤が入っても前の試合でもそうだったように解決される問題ではない。
大迫勇也はやはり別格である
1点リードの72分、北川に代わってついに大迫が投入された。
コンディションが心配される中で、次の準決勝に向けて試合勘という意味合いでの出場とも思われたが、心配するまでもなく大迫は別格の働きを見せた。
投入されてすぐに南野からのパスをワンタッチで縦に出し、堂安が走り込む。75分にも中盤に降りてパスを受け右にサイドチェンジ。さらに前に走り込み堂安とワンツーでベトナムのブロックを打開。
ベトナムが1点を追う段階で攻撃に出なければならず、疲れも見えている中でのプレーはいえ、その展開力は他の前線の選手にはないプレーだった。
これが意味するのは、大迫がいない状況で代わりになれる選手を選ぶこと、あるいは違う戦術を使い分けることの2つになる。
前者に関して言えば大迫以上のプレーをできる日本人など現状では存在しないため、例えばターゲットマンとなる選手を招集することでひとつの改善策にはなり得る。特に堂安、南野、中島ら瞬発力に優れた選手がいる現状では効果は期待できる。サイドバックの長友や酒井もクロスの選択肢を持つ選手なので尚更だ。
違う戦術に関して言うなら、サイドからハイクロスを狙わずより近い位置でパスを出して崩すことや、前線の選手が前を向いてパスを受けられるように出し手のパスを変えていくということだ。今の日本は足元へのパスが多く、スカウティングで読まれている場面が多い。
とにかく大黒柱の大迫が戻ってきたことは何よりも心強い。アジアカップで勝つという点に置いては今大会の日本はしぶとく現実的な戦いを見せている。準決勝での対戦はイランに決まった。アジアで最高クラスの相手にこの戦いが通じれば、守備面での安定をベースに森保監督も一歩先の段階に着手できるだろう。