アジアカップ初戦で、トルクメニスタン相手に先制されながら逆転で3-2の勝利。おそらく多くの人はもっと楽に勝つてることを考えていただろう。
過去を振り返ると、例えば優勝した2011年のアジアカップ。初戦のヨルダン戦で先制されながらなんとか追いつき1-1のドロー発進という大会もあった。そういった面も踏まえ、当時の経験者である長友や吉田は当然厳しい戦いになるとは大会前にも語っている。
とは言っても想定以上に苦しんだことは確か。ここではなぜ厳しい初戦となったのかを分析していきたい。
トルクメニスタン戦の前段階で想定できた要素
今回は試合内容を振り返る前に、キックオフ前の段階ですでに想定できた要素を挙げていく。
①UAEの暑い気候
②日本はこれからコンディションを上げていく段階
③相次いだ負傷者
④初戦から全力で来る相手国
まずは大会が行われるUAEの気候。この時期でも昼間は30度に達し、冬の寒い気候である日本やヨーロッパで試合をしている選手たちにとって、コンディション調整の面で難しくなる。
さらにJリーグが終了したばかりの選手と、欧州クラブでリーグ戦真っ只中の選手のコンディションの違いもあり、長友が12月30日の練習試合のあとで苦言を呈したように意識の差も出てくる。
過去の中東での試合、あるいはワールドカップでも同じような状況は何度もあり、代表スタッフも当然教訓を生かし準備はしているだろうが、それでも人間の限界はある。
実際、大会前の期間には負傷者も出ており、選手入れ替えを余儀なくされている。特に、森保体制となってから前線のアタッカーとしてチームを牽引してきた中島翔哉の離脱は大きなニュースとなった。
中盤でも守田が負傷離脱、遠藤が発熱とアクシデントに見舞われ、現地入りしてからの1月5日の練習ではCBの冨安が2CHの一角としてテストされている。
さらに日本の目標はアジアカップ制覇であり、そのためには7試合を戦い抜くことが条件となる。例えば、日本より上位と考えられる国の多いワールドカップのように、初戦から全力で相手に挑むという訳にはいかないのが前提条件だ。
逆に言えば、相手国にとってはアジア最高クラスの日本に対し全力で挑んでくることが想定され、そういった要素が噛み合うと初戦は難しい試合になることが多い。
つまり、こうした要素は事前に十分わかっていたことであり、敗戦の直接の原因とはならない。唯一なるとすれば誰が負傷するか(あるいはしないのか)はわからないという点だろうか。逆に言えばワールドカップと同じ23人をどう起用し戦い抜くかが問われることになる。
5バックで守備を固めて来たトルクメニスタン
ここからは試合について分析していく。序盤からトルクメニスタンの守備に手こずった日本は、前半を0-1のビハインドで折り返すことになるわけだが、果たしてなぜこのような状況に陥ったのだろうか。
試合開始からトルクメニスタンは541の布陣でスタートするという選択をしてきた。その上で日本の縦パスのコースを消して、インターセプトや受け手に対しての厳しいマークで簡単に前を向かせず攻撃を封じてきた。
相手の選択肢がどうであれ、立場的には格上となるのがアジアでの日本。相手の出方を伺いながらもボールを保持し、12分や22分のように大迫がパスを受けそこから決定機につながる場面は作り出していた。また、サイドチェンジやサイドからのクロスもありそこについては問題はなかったように思う。
守備でも高い位置で前線から中盤でプレスかけ奪う意識はこれまでの試合同様みられ、あとは決めるだけという状況はできていた。
それでもそのスコアになった理由はトルクメニスタンが高い集中力で連動して守備に動いていたらだ。特に日本が狙っていた54ブロックの間のスペースへのパスへの寄せは非常に早かったのが印象に残った。
その上で得点を狙う攻撃の部分でも積極性を見せており、引いてドローでオーケーという試合運びはしてこなかった。日本の選手は試合前にトルクメニスタンは縦に早い攻撃を仕掛けてくると語っていたが、実際にその形で失点してしまっている。
初のコンビとなった柴崎と冨安の連動性
トルクメニスタンは積極的な守備からカウンターというスタイルを全体で意識できていたが、それに対して、日本は柴崎と冨安という中盤の2人の攻守の連動性がなかったことで相手に付け入る隙を与えてしまった。
今回、中盤のコマが不在な状況で起用されたのがセンターバックが本職の冨安健洋。一方の柴崎岳も所属するヘタフェで出場機会が少なく、見ている側からすればどう噛み合うかは試合が始まってみなければわからない状態だった。
試合が始まり、序盤から主導権を握った日本は柴崎の中央からの縦パスを中心にパスを回し、トルクメニスタン守備陣を崩しに出た。しかし相手はそのパスコースを断ち切り、カウンターを常に狙ってきていた。
それに対して柴崎のネガティブトランジション、つま攻撃から守備への切り替えのアクションは遅く、冨安もポジショニングが曖昧でカバーできておらず、簡単に前を向いてボールを運ばせてしまう。
当然前がかりな日本は守備の枚数は手薄となり、26分に先制点を許す事となった。これまでの親善試合のように互いに長所を出す試合展開とは違い、勝ちを最優先とする公式戦で日本の良さを消してくる相手に対して起こるべくして起きた展開だったと言えるだろう。
攻守をつなぐ最重要なこのポジションを急造コンビで挑まなければならなかったことが、チーム全体のバランスが崩れる原因となっていた。
ワイドな攻撃で機能し始めた日本の攻撃
1点ビハインドで折り返した日本だが、後半は早い段階で同点、そして逆転とすぐさま反撃を見せる。
2得点はどちらも左SHの原口と左SBの長友が高い位置で連携し崩したものだった。特に先制点の場面で見せた原口の左サイドからの仕掛けは、まさにこれまで中島翔哉がやっていたパターンであり、この仕掛けが出たことで相手のボックス内での守備を撹乱することに成功している。
また先制点を決めた大迫も前半30分に完璧な決定機を外しており、今回はしっかり得点してみせた。2得点目も長友のクロスにも大迫が詰め、攻撃の起点となる動きと共にエースとしての役割も果たしている。
後半のトルクメニスタンは前半のようにボールにすぐさま寄せる運動量は減っており、前半の攻撃が効いていたことは間違いない。前半はサイドへのパスに対しても素早く寄せて縦に抜け出す機会を作らせてはいなかった。
堂安の3点目にしても、前半から狙っていた柴崎、大迫、南野、堂安とパスを繋いでの中央からの打開であり、トルクメニスタンの消耗は明らかだった。こうして3-1とリードを広げ実力の差を見せた。
2点差後のプランは想定されていたのか
前半の失点は余計だったにせよ、ここまでは大会初戦から日本がやりたい試合運びはできていた。にもかかわらず、このまま試合を終わらせるとこができず1点差に詰め寄られ、最後は前にクリアボールを入れてなんとか勝ちきったことには不安が残る。
特に気になるのは、個人のミスや守備意識の問題というより、どのようなプランを持って勝ちきろうとしていたか。という部分についてだ。
例えば自陣に引いて守りに入るのか、パスを回して時間を使い相手を疲労させるのか、あるいは前の選手を代えてより攻撃にでるのか。そういった戦術面での意思統一が見えてこなかった。
73分には南野に代わって同じポジションの北川が投入されているが、どのような意図を持って試合に入ったのかわからないまま終わってしまった感はある。2失点目の最初のボールタッチにせよ、終了間際の前線へのパスにせよリスクのある自陣で背を向けたキープが多く、相手に囲まれる状況を作り出してしまっていた。
2点差のリードといえば2018W杯でのベルギー戦を思い出すが、トルクメニスタン相手にもそれを思い出させるほどの苦い初戦となってしまったことは確かであり、簡単には改善できないことを改めて思い知らされた試合にもなった。