ルイ・ファン・ハール監督の就任1年目の昨季は、チャンピオンズリーグ出場もなくリーグ戦に専念できる状態であったにも関わらず4位に終わったマンチェスター・ユナイテッド。それでも長期に渡ったファーガソン体制からモイーズが引き継ぎ、なかなか形にならなかった時期と比べれば結果を出しているだけ上出来とも言えるかもしれない。
今季の目標はまず来週行われるクラブ・ブリュージュとの試合に勝利し、チャンピオンズリーグの本戦出場権の獲得すること。そして最低でもグループリーグを突破し決勝トーナメントへと進みたい。プレミアリーグ戦では2年目のチーム組織を固め3位以内に食い込みたいところだ。
ファン・ハール色を濃くする人員整理
上位を目指すにあたって、今季も多くの選手を入れ替えた。まずは放出選手から見ていく。昨季思ったような結果を残せなかったFWラダメル・ファルカオとは契約を結ばずモナコへ返却し、(のちにチェルシーへ移籍)昨季後半は負傷で出場の減ったFWロビン・ファン・ペルシーはフェネルバフチェに移籍。スポルテイングにレンタル移籍していたMFナニも同じくフェネルバフチェに加入することとなった。7月上旬にこれらの選手を整理したあとは動きがなかったが、8月に入りまずSBラファエウ・ダ・シウバをリヨンに放出。ファーガソン時代こそ起用されていたが、昨季は序盤戦以降ほとんど出番がなく、新加入選手も入ったことで完全に構想外になっていた。
そして移籍市場が開いてから多くの噂が飛び交っていたMFアンヘル・ディ・マリアがついに動いた。移籍先は昨季CLでベスト8に入ったフランスの強豪、PSG(パリ・サンジェルマン)。約103億円で加入しながらも戦術にフィットせず、期待された値の活躍はできなかったことを考えれば4430万ポンド(約85億円)での放出は十分すぎる取引だった。
戦術に見合った戦力補強
こうした人員整理の一方で、補強にも多くの費用をかけている。まずは6月の早い段階でPSVからFWメンフィス・デパイの獲得を発表。2014W杯のオランダ代表でもファン・ハール指揮下で活躍しており、戦術への対応は早いはずだ。7月に入ってからは3選手をたて続けに獲得する。まずはトリノから右SBのマッテオ・ダルミアンを獲得。この移籍によって前述のラファエルは放出されることとなった。続いてバイエルンからドイツ代表のMFバスティアン・シュバインシュタイガーを、さらにサウサンプトンからフランス代表のMFモルガン・シュナイデルランも獲得し、中盤で組み立てを担える選手を揃えることに成功。スコールズが引退した後のユナイテッドはこの部分がなかなか安定しなかっただけに、怪我なくシーズン通して戦えれば安定するはずだ。
その後、7月末にはサンプドリアからフリーでアルゼンチン代表のGKセルヒオ・ロメロを獲得。ロメロはAZ時代にファン・ハール監督の指揮下で戦った経験があり、これが獲得要因となったことは間違いないが、その他の背景としてビクトル・バルデス、そしてダビド・デ・ヘアの移籍騒動がある。
これは昨季の事になるが、まず負傷明けで昨季2軍に送られることを拒んだビクトル・バルデスに対し、ファン・ハールが「私の哲学に従っていない。そういう選手の場所はない」と発言して事実上の戦力外通告を行ったこと。続いてデ・ヘアも今季のRマドリーへの移籍騒動の中でプレーできる状態にないと発言したこと。これらの要因が重なったことで、結果的に新加入のロメロが現在では第1GKという立場となっている。
今後の戦力補強は?
ファンハール監督はデ・パイ獲得以降もFWの獲得を示唆する発言をしてきた。上位を争う他のチームと比べると実際にFWの人材不足は明らかで、このままチャンピオンズリーグとプレミアリーグを並行して戦えるとは考えられない。にも関わらず未だに具体的な名前が出てこないのは、まだCL出場権を得ていないという事実があるからか。選手からしてもCL出場のできるチームを望むだろうし、大きく動くのはおそらくそれ以降となるだろう。※追記
移籍市場終盤の巨額な投資
クラブ・ブルッヘとチャンピオンズリーグ本戦へのプレーオフを戦い順当に勝利し出場を決めた8月末、既存の選手の人員整理が行われた。昨シーズン序盤にCBの一角を担っていたこともあった北アイルランド代表の若手DFパトリック・マクネアー。しかしその後は新加入選手の影響もあり定位置獲得には至らず出場機会を失っていた。そのため今季はセルティックへのローンで移籍することになった。同じく北アイルランド代表でマンチェスター・ユナイテッドのアカデミー出身でもあるジョニー・エバンス。レギュラーCBとしてシーズンを戦ったこともあったこの選手だが、昨季はフィル・ジョーンズやクリス・スモーリングといった若手の成長もあり出番が少なくなっていた。それもあって今季はウェスト・ブロムウィッチへの移籍を決める運びとなった。
今季はデ・ヘアの移籍騒動で賑わったユナイテッドの移籍市場だったが、デンマーク人GKアンドレス・リンデゴーアもそれに巻き込まれた一人だろう。誰を獲得するのか、誰が放出されるのか、ギリギリまで決まらない中でリンデゴーアはウェスト・ブロムウィッチに移籍することを決めた。
その一方で、ダビド・デ・ヘアとビクトル・バルデスの両GKは結局残留することになったようだ。デ・ヘアに関してはレアル・マドリーとの契約交渉こそまとまったものの登録が間に合わずに移籍が破断。バルデスもベシクタシュと契約という噂もあったが、
最終的な合意までは至らずユナイテッドに留まることになった。しかし前述のとおりファン・ハール監督の信頼を失っており、意思を曲げるタイプの監督ではないため出場機会を得ることは難しいだろう。
守備陣だけでなく攻撃陣にも動きがあった。昨季はローンでレアル・マドリーに移籍していたメキシコ代表FWハビエル・エルナンデス。今季もシーズン序盤からすでに構想には入っていなかったようで、最終的にレバークーゼンへ完全移籍を決める。
モイーズ監督時代に見出され、昨シーズンも途中出場ながら出場機会を得ていたベルギー代表FWアドナン・ヤヌザイ。今季もここまで4試合に先発出場し、2節のアストン・ビラ戦ではゴールを奪う活躍も見せていたのだが、突如ドルトムントへのローン移籍が決まった。
なぜこのタイミングで手放したのか真相のほどははっきりしないが、一つの理由として挙げられるのが移籍最終日にモナコからフランス代表FWマントニー・マルシャルを獲得したことだろう。ヤヌザイと同世代で、各年代のフランス代表に選出されてきたエリート選手の獲得。約68億円という移籍金の額を見てもその期待感が伺えるだろう。この移籍をもってユナイテッドは夏の移籍市場を閉めた。
最後に上記で取り上げなかった選手の移籍状況をまとめておく。アストン・ビラに昨季レンタル移籍していたMFトム・クレバリーはエバートンへ完全移籍が決定。長らくユナイテッドに在籍しながらレンタル移籍を繰り返していたGKベンジャミン・アモスはフリーでボルトンへの移籍が決まった。昨季加入しボルトンへレンタル移籍していたDFサイディ・ヤンコも完全移籍でセルティックへの加入が決定済み。